近年頻発する自然災害。記憶に新しい令和8年熊本地震においても、甚大な被害がもたらされました。当法人副理事長であり統括マネージャーを務める草原比呂志氏のご実家がある熊本県八代市も特に被害が大きかった地域の一つです。

 今回の地震を受け、草原氏は発災直後より現地入りし、「八代市立松高小学校避難所」や「熊本地震被災地障害者センター」といった災害現場で、障がいを伴う方々の支援活動に携わりました。

 その貴重な経験から、私たちが「今備えるべきこと」についてリアルなメッセージをいただきました。前後編の全2回にわたってお届けします。

 

熊本地震での災害援助体験から

「障害のある方の一時避難について」

~ご本人とご家族が安心して避難するために~

副理事長・統括マネージャー 草原比呂志

 今回、熊本地震被災地障害者センターでの災害援助に関わる中で、改めて考えさせられたことがあります。それは、障害のある方にとっての「避難」は、単に安全な場所へ移動すれば終わりではないということです。

特に、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害のある方の中には、普段と違う場所、大勢の人、大きな音や照明、におい、予定の変更などに大きな負担を感じる方がいます。「大きな声を出したら周りに迷惑をかけるのではないか」「じっとしていられないから避難所には行けない」「パニックになったらどうしよう」と、ご家族が避難をためらうこともあると思います。

しかし、一般の避難所で生活することが難しいからといって、避難そのものを諦める必要はありません。大切なのは、「本人を避難所に合わせる」のではなく、「本人が安全に過ごせる避難方法を考える」ことです。

 

熊本・八代で見えてきたこと

今回の熊本地震では、八代市でも一般の避難所だけではなく、自宅や車中などで避難生活を続ける方がいました。また、八代市の障害者支援施設「八代学園」では建物の一部が被災し、入所している方々が限られたスペースで生活を続ける状況となりました。八代学園は福祉避難所に指定されていましたが、施設自体が被災したことで、一般の避難者を受け入れることが難しい状況となりました。

このことからも、「福祉避難所があるから大丈夫」と考えるだけでは十分ではありません。福祉避難所自体が被災することもあれば、道路状況によって移動できないこともあります。避難先を一つだけに決めるのではなく、複数の選択肢を考えておくことが大切です。

また八代市には、被災した障害のある方を支援する「被災地障害者センター」が設置され、必要に応じて自宅などを訪問して生活状況を確認する支援も行われました。ここから分かる大切なことは、「避難所に来ていない=困っていない」ではないということです。自宅や親族宅などで避難する場合にも、「ここで避難しています」「障害のある家族がいます」「このような支援が必要です」と自治体や相談支援専門員、福祉事業所などに伝え、支援から孤立しないことが大切です。

 

一般避難所で生活することが難しかったら

避難所に行ったものの、ご本人が落ち着かない、大きな声が続く、眠れない、歩き回るなど、生活を続けることが難しい場合があります。そのようなときは、まず避難所の運営者に障害特性を具体的に伝えてください。

「○○障害があります」だけではなく、「大勢の人の声が苦手です」「静かな場所なら落ち着けます」「見通しがないと不安になります」「言葉だけでは理解しにくいので、写真や絵で示してください」など、何が苦手で、どうすれば過ごしやすいのかまで伝えることが重要です。

避難所の中でも、静かな場所、別室、パーテーションなどで区切られたスペースを利用できる場合があります。それでも難しい場合には、自治体に相談し、福祉避難所への移動を検討します。安全が確認された自宅や親族宅、状況によってはホテル・旅館などが一時的な避難先となる場合もあります。福祉避難所の開設状況や利用方法は自治体によって異なるため、平常時に確認しておくことが重要です。

 

薬がなくなったらどうする?

災害時には、「薬を持たずに避難した」「自宅に薬を取りに戻れない」「いつもの病院や薬局が利用できない」といったことも起こります。特にてんかんの薬や一部の精神科の薬などは、急に中断すると体調に影響する場合があります。

普段から主治医や薬剤師に「災害で薬がなくなった場合はどうすればよいですか」と確認しておきましょう。お薬手帳をすぐ持ち出せるようにし、薬の名前、量、飲む時間、かかりつけ医、薬局などを紙に記録したり、スマートフォンでお薬手帳や薬袋を撮影したりしておくことも役立ちます。

実際に薬がなくなった場合は、自己判断で中止したり量を変更したりせず、かかりつけ医や薬局、避難所の医療救護班などに早めに相談してください。

 

「その人に必要な防災用品」を準備する

一般的な防災用品に加えて、障害のある方には「本人専用の防災用品」が必要です。普段飲んでいる薬、お薬手帳、食べ慣れた食品、飲み慣れた飲み物、着替えや排泄用品、イヤーマフ、タオル、お気に入りの物、写真や絵カード、普段使っているスケジュールなどです。

ASDのある方の中には、食べられる物が限られている方もいます。また、いつも使っている物が、慣れない環境で安心するための大切な手掛かりになる場合もあります。防災バッグを準備するときには、「この人が、いつもの生活を少しでも取り戻すために必要な物は何だろう?」という視点で考えてみてください。

 

「本人のことが分かる一枚」を作っておく

災害時に、いつもの支援者がそばにいるとは限りません。保護者自身がけがをしたり、ご本人と離れて避難したりする可能性もあります。そこで、「本人のことが分かる一枚」を準備しておくことをお勧めします。

障害特性、持病・アレルギー、服薬内容、意思表示の方法、理解しやすい伝え方、苦手な環境、食事や排泄の支援、パニック時の対応、落ち着く方法、かかりつけ医、利用している福祉事業所、緊急連絡先などをA4用紙1枚程度にまとめ、防災バッグに入れておきます。ご本人が自分で説明することが難しくても、初めて会う支援者や医療関係者に必要な情報を伝えやすくなります。

 

災害が起きる前に考えておきたいこと

防災用品だけでなく、「誰に頼るのか」も準備しておくことが大切です。

「自宅が使えなくなったら、どこへ行くのか」「一般避難所で過ごせなかったら、どこに相談するのか」「薬がなくなったら、誰に連絡するのか」「保護者が本人を支援できなくなったら、誰にお願い

するのか」。こうしたことを、普段利用している事業所、相談支援専門員、自治体などと共有しておきましょう。

可能であれば、平常時にご本人と避難場所まで行ってみることも一つの方法です。写真で避難場所を見せたり、散歩の途中に避難所の前まで行ったりするだけでも構いません。また、自治体の「避難行動要支援者名簿」や「個別避難計画」についても、ご本人が対象となるか確認しておくとよいでしょう。

 

災害時の支援は「普段の支援」の延長です

熊本での災害援助を通して改めて感じたのは、災害が起きてから初めて考えるのでは、間に合わないことがあるということです。

普段、ご本人は何が苦手なのか。何があると安心できるのか。どのような方法なら意思を伝えられるのか。困ったとき、どのような支援があれば落ち着くことができるのか。こうした普段の支援情報そのものが、災害時には非常に重要な情報になります。

一般避難所で生活できない場合にも、ご家族だけで抱え込まないでください。「私たちはここに避難しています」「障害のある家族がいます」「このような支援が必要です」と伝え、

支援につながることも大切な「避難」です。

災害はいつ起こるか分かりません。だからこそ、「起きてから考える」のではなく、「今できる準備」から始める。今回の熊本での経験が、ご本人とご家族で災害への備えについて話し合う一つのきっかけになればと思います。